世田谷区目黒区の名建築探訪
H12/02よりH16/08で 終了

朝日タウンボイス  
朝日新聞の地域版(目黒、世田谷)月刊新聞
JKK(住環境研究会)による共同執筆   
H12/02
遊びと住宅
H12/03
見つけた工務店
H12/04
換気の話
H12/05
2世帯住宅
H12/06
収納スペース
H12/07
建築家の気持ち
H12/08
風通しのいい家
H12/09
洗面所を快適に
H12/10
風水の話
H12/11
猪俣邸
見学
H12/12
松沢出張所
(長島孝一設計)見学
H13/01
H邸
見学
H13/02
旧長崎家住宅主屋
見学
H13/03
蘆花恒春園
見学
H13/04
砧下浄水所
見学
H13/05
駒沢大学耕雲館
見学
H13/06
旧小阪邸
見学
H13/07
松沢資料館
(阿部勤設計)見学
H13/08
旧城田家住宅主屋
見学
H13/09
世田谷区立特別養護
老人ホーム/芦花ホーム
(長島孝一設計)見学
H13/10
旧前田伯爵邸
洋館見学
H13/11
カトリック目黒教会
(レイモンド設計)見学
H13/12
世田谷美術館
(内井昭蔵設計)見学
H14/01
都立深沢高校 清明亭
見学
H14/02
庭園美術館
旧朝香宮邸
見学
H14/03
世田谷文学館
(杉村憲司設計)見学
H14/04
五島美術館
(吉田五十八設計)見学
H14/05
旧千代田生命本社
(村野藤吾設計)見学
H14/06
日本民藝館
見学
H14/07
世田谷区立
中町小学校
(内井昭蔵設計)見学
H14/08
成城4丁目旧N邸
見学
H14/09
日本学園1号館
(今井兼次設計)見学
H14/10
福原病院
(安藤忠雄設計)見学
H14/11
秦山館
(泉幸甫設計)見学
H14/12
TOTOテクニカルセンター
(北山孝二郎設計)見学
H15/01
三田家住宅主屋
見学
H15/02
下馬南地会館
(新居千秋設計)見学
H15/03
成城山 耕雲寺
(鈴木了二設計)
見学
H15/04
萩原家住宅
(遠藤新設計)
見学
H15/05
めぐろパーシモンホール
(日本設計)見学
(注 下記)
東急の東横線の都立大学駅より柿の木坂を通り、昔からの商店街を抜けると突然広場> が見えてくる。
ここは昨年オープンした「めぐろ区民キャンパス」がある。この敷地は 平成3年まで都立大学の構内であ
ったが、その跡地を東京都と目黒区によって整備さ れ、広場を中心に目黒区の施設(めぐろパーシモン
ホール、八雲体育館、八雲図書 館、セレモニー目黒(葬祭場)、心身障害者センターあいアイ館)と都営
住宅が配置 されている。全体の設計・監理は日本設計で、最先端の大手設計事務所だけあって現 代
建築のボキャブラリーであるガラス、石、スチール、打ち放しコンクリートを上手 に組み合わせたデザイン
になっている。その中の平成14年9月に竣工したパーシモ ンホールは、約1200席の大ホール、約200席
の小ホールおよび5室の練習室・会議室か らなる複合施設である。パーシモン(persimmon=柿)とは、こ
の施設の近くの「柿 の木坂」という地名から命名された。この大ホールには、音響反射板に吊り下げられ
ているシャンデリアがあり、たいへん見事である。近くの地名「八雲」を象徴して 「八個のクモ」のイメージ
で作ったそうである。優雅な雰囲気があると同時に、音を 演奏者に返す機能もあるという。また、客席の
傾斜角度が大きくなっており、見やす く視覚的条件も大変優れている。当然ながらバリアフリーのことは
よく考えられてい て、多くの車椅子の利用客の配慮も忘れてはいない。またメープルの木の内装をふん
だんに使った暖かい雰囲気の小ホールは、可動席と平土間とを自由に変化できるよう になっている多
目的ホールである。まだ間もないのに最近の稼働率は大ホールは80 %以上、小ホールは90%以上と
 なかなか幸先がよい。財政が厳しいとはいえ、今 後もこういったすばらしい区の施設がますますできる
ことで 地域の教育、文化、福 祉、環境、芸術の向上を大いに期待したい。(文章 梅山)
H15/06
世田谷区立桜丘小学校
(アルコム)見学

メインゲートより望むと打ち放しのコンクリートの巨大な小学校でありながら 重く冷たい雰囲気はなく 適度に建築のスケールに変化を与えているためヒューマンスケールを感じ それが子供たちの尺度とうまく調和しているように思えた。内部は オープンプランニングを徹底していて区立とは思えないほどゆったりとした設計。廊下はむしろ広場と言ったほうがいいくらいの幅でその延長線上に壁の無い教室がある。「広いので廊下を生徒が走り廻って困る」と笑いながらおっしゃる校長から、逆に活発な子供たちを誉めているようにも聞こえた。内装はコンクリート打ち放しがメインとなっていてポイントに木の天井を使っているだけであるが 天井が高かったり、トップライトやサイドライトからの光を取り入れたり、とても豊かな空間構成になっている。またオープンスペースばかりでなく 子供たちが落ち着いて話ができるデンという小さな空間なども作り、心憎い演出をしている。設計者の船越徹(アルコム)は アリーナ→多目的スペース→オープンスペース→クラスルーム→デンと順番に空間の大きさが変化する構成(ヒエラルキー)を、メインコンセプトとして考えたことがうなずける。またこのプランで独特なのが クラス単位ではなく学年単位でひとつの大空間になっていて、なおかつ教師コーナーもその片隅にあり 生徒と教師が一体になっていることである。一階にある職員室は 全体の会議で利用するだけでほとんどこの教師コーナーにいるという。まさに学年一体のコミュニケーションを考えている計画である。 (文章 梅山)  

H15/07
デイホーム玉川田園調布
(ヘルム建築都市コンサルタント)見学

住民参加型の会議を前提としてプロポーザルに選ばれたヘルム建築都市コンサルタント(代表 西田勝彦)が4年前に作ったこの建物は自由が丘駅より徒歩10分。車が頻繁に走っている大通りの角地にこの建物が建っている。とてもイメージしていたデイホームのイメージはない。むしろ自由が丘らしい洒落たレストランや店舗にも見える若若しいモダンなデザインである。大きなガラスや塗り壁や金属の壁面、木製やFRPグレーチングなどの化粧としての格子など いろいろな素材を使っているために 建物の表情が場所によって変化して見えるのは楽しい。一階に入ると受付と地域にも開放しているという気取らなくおちついた雰囲気のホールがある。階段やEVを使い二階三階に行く。要介護、要介護状態にある高齢者のためのデイルールスペースが広がる。圧巻なのは吹き抜けでつながっている二階三階。大きなガラス窓やトップライトでとにかく明るくて気持ちがいい。それでいて単純な大空間ではなく ある程度分散している一つ一つの空間が住宅スケールでとても家庭的に感じる。設計者の西田は、すべての人が気配を感じさせる温かな「大きな家」をコンセプトとして、吹き抜けを通じて皆が同じ屋根の下にいるような意識を持つような空間にし、特に三階の痴呆重度のエリアもそのために閉鎖感もないような設計をしたという。なるほど設計コンセプトどおりになったことが 明るい光の中での穏やかな顔をした老人達からも十分うかがえる。ただし 家庭的なスペースにしたことで皆で何かをする大スペースがないことや、明るすぎることで夏暑すぎることや、事務スペースがあまり無いことなど、建築の難しさを同業者として痛感する内容もあったが、概して今後のデイホームの見本になるような例といえよう。この建物で「医療福祉建築賞」を受賞している。(文章 梅山)

H15/08
富士見丘教会 

 下北沢駅より徒歩8分。繁華街を抜けた大きな屋敷町の一角にこの建物がある。昭和11年に建設されたこの建物は8回目となる昨年末の改修工事の末 見事に復元された。フローリング以外ほとんど当時のままの再現である。外観はシンプルであるが内部に入ると大空間に圧倒される。見所は、内部に入ると小根組みは木造の構造的な骨組みを積極的に利用した見事なトラス構造(ハンマービーム工法)となっているところである。この工法は1400年代のイギリスで発展した、屋根の水平力を確実に壁面に伝達するために考えられた工法であるが 独自にアレンジしてあり、日本の伝統的な組み方と根本的に違うのでとても見ごたえがある。またその小屋組みを支えているローマのコリント式風の木製柱も彫刻職人の粋を感じ興味深い。第二次世界大戦を経てこうして保存されることはとてもうれしい限りであるが、もうすこし我々も保存に対してのネットワークづくり、地方自治体や地域全体での保存環境に対する意識の向上といったさまざまなことがらを同時に進めていかなければならないと痛感した日でもあった。(文章 梅山)

H15/09
世田谷自動車学校
(プランツアソシエイツ宮崎浩)見学

この世田谷自動車学校は 京王線芦花公園駅より徒歩15分。環八の裏通りながら頻繁に走る道路を歩いていくと突然モダンなこの建物が現れる。設計者は NSPビルで2000年に日本建築学会作品選奨選定を受けたプランツアソシエイツの宮崎浩である。昭和45年からある自動車学校の建て替えで2000年2月に完成した。用途上作ることができない場所に「良好な住環境を害するおそれがないこと」と「まちづくりへの貢献」という条件をクリアすることで許可された建物である。道路沿いに自由に利用できるデッキのオープンスペースがあるのはそのためである。構造的に興味深いのは鉄骨の柱とコンクリート打ち放しの壁という組み合わせである。同じ構造材で作られるのが一般的なのをあえて異種の構造材の組み合わせをしていて、デザイン的に美しくシャープに表現している。従来からある暗い安っぽい自動車教習所のイメージから脱して明るく豪華なそれは、本当に見事である。教習所という性格上若者をターゲットにしているだけあって吹き抜けで大きくな開口部があるフローリングの待合室、黄色い壁など 実に若々しい印象をもった。(文章 梅山)

H15/10
東京工業大学百年記念館
(篠原一男)見学

卒業生のために作られた東京工業大学百年記念館は、大岡山駅前の大学の正面横でまるでガンダムのような形態でそそり立っている。1987年完成時には、SF的な形態のため マスコミに何度となく取り上げられた。常識的なスケールを超えた独特な空間認識の中で、幾何学形態の組み合わせをすることで有名な建築家「篠原一男」の集大成と言うべき作品がこの建築である。下階である立方体の中は展示スペース、セミナールーム、オーディトリアムがあり、最上階の半円形にはレストランある。晴れた日にはそのレストランから富士山が眺められるようにということで下階の立方体と軸がずれているが その意図的な「ずれ」が新鮮な形態を生み出す最大の要因となっている。モダニズムから出発しながら自分のスタイルでポストモダニズムを切り開いたこの建築家は1990年紫綬褒章を受賞した。  
(文章 梅山)

H15/11
都立芦花高等学校
(早川邦彦)見学

この都立芦花高等学校は、大学のような単位をとって卒業するという単位制の新設高校。できたばかりというということもありまだ1年生240人しか在籍していない。男女の定数制ではなく実力のみで選別された結果、女子と男子の割合は2対1という割合も面白い。さすがにシステムが最新であることもあり、この建物の外観も斬新である。始めてここに訪れる人がこの建物をとても高校と想像できる人はすくないだろう。まるで美術館や最先端企業のような外観だからである。設計は日本で最も名誉のあると言われている日本建築学会賞を1994年受賞した建築家早川邦彦。近所にある
世田谷区立千歳温水プールや東京都千歳清掃工場の設計者でも有名。そして偶然にもこの高校の母体でもあった都立千歳高校の卒業生。さすがにOBだけあって愛情こもった仕掛けがある。空調のないこの校舎内に昔から流れているという南北に吹く風を尊重した窓、将来地域に開放するという施設の設置、一見無駄とも思えるような生徒の団欒の中庭や室内のアルコーブや吹き抜けのホール、どこからでも仲間の顔が見えるようなオープンな教室、とても豊かな空間を形成している。特にユニークなのは隣地側と内部側の外壁の仕上げを変えていること。視覚的な演出で見事に内外を分離している。母体のなかで安心して勉学に勤しむことができるような雰囲気がある。未来を予感させるこの校舎の中で育った生徒は誇りを抱きながら卒業するすることは十分納得しながら、あえて誰もが気になるところを指摘するとすれば、緑が意外と少なく殺伐とした雰囲気があるところや 平面が複雑なだけに見通せない死角に出入口がかなりあり、生徒の管理や外部に対するセキュリティーが心配なところだろう。時代とともに徐々に解決することを望みたい。(文章 梅山)

H15/12
世田谷区立船橋地区会館
(長島幸一)見学

千歳船橋駅より徒歩15分。静かな住宅街の中に静かにたたずんでいるのがこの世田谷区立船橋地区会館である。コンクリート打ち放しの外観に青いタイルをポイントに使用していて、窓もいろいろな形があり面白い。屋根は弧を描いた曲面の片流れ屋根で中空に浮いた様なデザインで、その形態が隣地の公園の豊かな樹木とよく溶け合っている。内部は外部のモダンなデザインと違い、木の手すりの格子や内装材、床のフローリングが温かみを感じさせる。変化にとんだ天井や吹き抜け空間も興味深い。もうすぐ築15年。とても大切に使っていても、確かにこの建物は古くなっている。機能も当時想定したこととは変化するために変更せざるを得ないのは当然である。具体的には間接照明で暗かったので今年シンプルな明るい蛍光灯照明に変え、ランニングコストを考え水冷式集中冷暖房を中止して個別にクーラーを新設し、室外機もせっかく大切にデザインされた外観に無造作に露出する工事をしたばかりだそうである。おそらく設計者の長島幸一氏の設計の意図とはく程遠い内容の変更であり 専門家としては目をつぶりたくなるような箇所をいたるところで目撃し同情するところが多かった。しかしこの建物は地域に着実に根ざし 周辺の住人に確かに喜ばれている。予約もほとんどいっぱいであるという。建築とは固定化されたものではなく、代謝し、設計が終わると使い手が大事に育てていくものだと、改めて実感した取材であった。(文章 梅山) 

H16/01
大塚文庫
(大江宏)梅山は事情により欠席

自由が丘の大塚文庫は、和の建築の第一人者である、大江宏の作品。この建物の各部屋を 文化的な活動のスペースとして貸している。絵画や工芸の展示会、室内楽のコンサート、茶会、句会、対談、講演会場、写真撮影などにご利用している。
H16/02
目黒区緑ヶ丘小学校
(アルコム)見学

内外コンクリート打ち放しの建物。最近流行のオープンルームにしている。しかしあまりこれと言って特徴の無い建物。(文章 梅山)
H16/03
世田谷区立知的障害者就労支援センター スキップ
(高谷時彦)見学

世田谷区立知的障害者就学支援センター「スキップ」は、一見商業施設に見えるほどのモダンで魅力的な建物である。93年に指名プロポーザルで選ばれた設計者の高谷時彦が意図したのは「ノーマライゼーション」という街中に調和させることであった。たしかに想像していたよりも小さく威圧感はない。むしろ打ち放しコンクリートやタイルや穴あきブロックの素材と柱に絡みつくツルなどの植物類のコントラストが妙に温かみがある。またエントランス付近には境界フェンスも無く概して開放的なところが心地よい。道路側よりゲートを兼ねたブリッジをくぐると明るいホールに入る。すぐ横には中庭があり 圧巻なのはそれが南に面して地下一階から地上二階までまんべんなく光が入りどの部屋も見渡せ明るいことである。さてここは 知的障害者の2年間の職業訓練を行い一般の企業に就職させることを目的とした建物である。具体的には、名刺や封筒の印刷や区の施設等のクリーニング作業を通じて礼儀や集団行動など社会生活に適用する訓練を学ぶことにある。ここで学んでいる知的障害者の生徒は皆明るく、元気で、礼儀正しく こんな不景気でありながら一流企業からの就職率がとてもいいという。逆に我々が学ぶことが多かったことは喜ばしい収穫であった。生徒達がここにいる間に安定し感受性を豊かにしているというのは,この建物の豊かな空間の影響が少なからずあるとともに、ここに携わっている職員の影ながらの地道な努力が垣間見れた気がした。(文章 梅山)

H16/04
カトリック成城教会聖堂
(今井兼次)見学
巨匠 今井兼次でも けっこう退屈な建物を設計していた。期待していただけに残念な建物。語るところは無い。(文章 梅山)
H16/05
駒沢オリンピック公園
(芦原義信)見学

駒沢オリンピック公園は、もとは旧駒沢ゴルフ場跡地で、いくたびかの変遷をへて、昭和26年以降、東京都駒沢総合運動場となっていた。オリンピック開催を契機に各種競技施設を設けるかたちになり 昭和39年に行われた東京オリンピックの第2会場として作られた都市公園の好例。駒沢通り側からまったく囲いの無いオープンな大きな階段を上って行くと、真正面には広場のモニュメントである管制塔のみが徐々に現れてくる。上りきりといきなりがらんとした石畳の大きな広場があり、左手には 半分地下に埋め込んだためヒューマンスケールになっているシェル構造(貝のような構造形態)のモダンな「駒沢オリンピック公園体育館」、右手には同じように半分埋め込んでいる陸上競技場が見えてくる。歩きながら変化するその風景はなかなかおもしろい。実はこの風景こそ建築家芦原義信は大変に重要視したコンセプトであった。「町並みの美学」や「外部空間の設計」の筆者として有名なこの芦原は、建築や内部空間ばかりでなくこうした「外部空間」にも積極的に設計したことに当時大変な評価を得た。またたくさんの樹木で埋め尽くして公園風にしようという多くの意見に反して、芦原はイタリアの広場のような石畳だけの公園を断固主張し現在のような形になったそうである。また日本の伝統のことなどをまるで意識しないで設計したのだが 結果的にこの管制塔が日本の五重の塔に見えるのは皮肉な話であるが 逆に和的広場の雰囲気をかもし出し、環境にしっくり溶け込んでいるように見えてよい。芦原設計である駒沢オリンピック公園体育館の内部に入ると 地下には 上部トップライトから光が降り注ぐ 立派なオリンピックメモリアルギャラリーやカフェテリアがある。見学当日 平日であったせいもあるかもしれないが あまりに人が少なく閑散としているのには、とても残念である。公的施設でありがちなことではあるが せっかくの施設をもうすこしアピールするべきではないかと感じた。(文章 梅山)

H16/06
東京農業大学「食と農」の博物館
(隈研吾)梅山は事情により欠席

「食と農」の博物館は、貴重な動植物や歴史的文献など、農大が113年の歴史の中で積み重ねた数多くの資料を広く一般に公開し、「食」と「農」の情報発信拠点とすべく、H16年4月6日にオープンした。
H16/07
目黒美術館
(日本設計事務所)に見学

1987年にオープンした目黒美術館は、目黒駅より徒歩10分、目黒川に沿ったところにある都心とは思えないほどの豊富な緑に囲まれた区民センターの一角に さり気無くたたずんでいる。周りは図書館や児童館、体育施設、プールなどが立ち並び とても気持ちのよい環境である。この美術館は、近代現代の日本人作家による美術作品を収集し、これらを収蔵作品展で公開したり、企画展を積極的に開催しているが、常設展示は少ない。
うっかりすると見過ごしてしまうようなこじんまりとしたガラス貼で囲まれたメインエントランスを入ると ヒューマンスケールなホールが迎えてくれる。実はそれは設計当初からここの関係者も参加したからこそ成し得た成果である。地域に息づくもっとも身近な美術館、気軽に美術に親しめる憩いの場、さらには美術を媒介とした都市生活者の自己再発見の場として、住宅的なスケール観をコンセプトにすることが重要だったからである。そして小さいながらもモダンな彫刻作品と絡ませた吹抜や、階段室や展示室などにあるトップライトの光の演出で その内部空間をさらに魅力的にしている。
ホール横には 有名なインテリアデザイナーのデザインによる大きな開口の明るいラウンジがあり、観賞後の憩いの場となっている。木製の大きなビックテーブルが暖かさをかもし出し 来客者にはうれしい心配りである。
展示室では、展示パネル等を吊るワイヤーシステムを独自に開発したり、どこにでも展示用の釘が打てるようにしたり、自立型の展示壁を加えることで、展示壁面も広く確保している。実にコンパクトながら地上三階、地下一階のこの建物は、機能的にうまく設計されている。
最近は 全国的に美術館来客人数も減少傾向にあるという。しかしこの美術館では 積極的に小学生を授業の一環として招待して「美術を鑑賞するおもしろさ」を経験してもらったり、大きな美術館ではできないイベントやワークショップもどんどん取り入れている。今後も地域に根ざしたすばらしい活性化した美術館になることを大いに期待したい。
 完成がバブルがはじける前ということもあり、外観は総ミカゲ石貼でたいへん豪華である。内部空間がヒューマンスケールというコンセプトは認めるとしても、フォルムが単調なだけに、公園側にも道路側にも排他的な建物となり、他の区の施設郡とも調和を感じないし、内部と外部の矛盾にどうも納得ができないという印象をもったことは 少々残念であった。

JKK 住環境研究会
(梅山正純,伊藤真一、貝塚恭子、萩原幸江)